椎間板ヘルニアって何?

椎間板の構造
椎間板の構造

腰痛の種類として、一般に広く知られているものに、椎間板ヘルニアがあります。

背骨には、椎骨と椎骨の間に、クッションの役目をする椎間板と言うゴムのような組織があります。 この組織は、中心にゼリー状の柔らかい組織(髄核)があり、それを包み込むように弾性の強い線維状の組織(線維輪)で成り立っています。 

椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニア

椎間板ヘルニアとは、椎間板の中のゼリー状の組織が、線維状の組織の割れ目などから出てくることにより、背骨から出る神経を圧迫してしまう現象を指します。 

 

診断方法は、


MRIなど画像所見で椎間板の突出がみられ、脊柱管狭窄所見を合併していない。
症状と画像所見とが一致しているなどです。

 

たまに、レントゲン画像から椎間板ヘルニアを診断された方がいるようですが、レントゲン画像では、椎間板は写りません。

 

 

「重い物を運ぶ」と椎間板変性は無関係?!

椎間板ヘルニアと重いもの
椎間板ヘルニアと重いもの

巷では、椎間板変性(ヘルニア)をまねくとされている「重い物を運ぶ」などの腰部での負荷。

本当に椎間板変性(ヘルニア)を招いているのでしょうか?

 

そんな疑問に対する研究論文をご紹介しましょう。

2002年、Elfering Aによって脊柱関連学術誌「Spine」に発表された論文です。
研究内容は、41名の健常者を対象に、MRIで腰部椎間板を繰り返し撮影し、5年間にわたって追跡調査を行いました。

その結果、全体の41%に椎間板変性の発症・進行が見られ、「重い物を持ち上げる」「重い物を運ぶ」「身体を捻る」「身体を曲げる」などの従来の危険因子と言われていた動作は、椎間板変性に影響していないことが分かりました。

 

腰痛発症率も調べてみると、椎間板変性のある方が低かったことも判明し、腰痛と椎間板変性は無関係だと言う結論が出ました。

これからは、腰に負担がかかると言われている動作で、椎間板は変性を起こさないと言うことを覚えておきましょう。そして、椎間板変性と腰痛とは無関係と言うこともお忘れなく。

 

 

椎間板変性は、遺伝子が決定している?!

椎間板と遺伝子の関係
椎間板と遺伝子の関係

一般的に椎間板ヘルニアや椎間板変性にならないために、「どんな姿勢が良い」とか、「どのような動作は避ける」などの情報やアドバイスがあったりします。
ところが、椎間板変性には遺伝的要因が大きいのをご存知でしたか?

1995年、Battie MCが、脊椎関連の権威がる学術誌「Spine」にこんな研究論文を発表しました。

その研究とは、物理的因子が一致しない男性の一卵生双生児115組を対象に、詳細なアンケートとMRI撮影で椎間板変性の危険因子を調査したものでした。

物理的因子が一致しないとは、双子でも一人は肉体労働をしていたり、違うスポーツをお互いしていたりと肉体的にかかる負担が違うと言う意味です。

そして、一卵性双生児を対象にしたということは、遺伝的にまったく同じ2人を使っていると意味します。

この調査の結果、椎間板変性は、仕事やレジャーによる身体的負担、車の運転、喫煙習慣よりも、遺伝的因子の影響を強く受けていることが分かりました。
そして、この研究は、腰痛研究のノーベル賞と言われているVolvo賞を受賞しました!

ここで勘違いしてはいけないのは、椎間板変性や椎間板ヘルニアは遺伝的要因が大きいことが分かりましたが、椎間板変性・椎間板ヘルニアと腰痛は別と言うことです。

椎間板変性・椎間板ヘルニアは健常者でも普通におこる、遺伝的な個性というだけのお話なんですね。ほっぺのエクボと変わらないことになります。

 

 

椎間板変性は、3歳から起きている?!

椎間板変性は遺伝的要素が大きく影響していると言う研究を紹介しました。
では、いつから椎間板変性が起きるかを調べた研究もありますのでご紹介しますね。

2002年、Boos Nによって、脊柱関連の権威ある学術誌「Spine]に発表されました。

研究内容は、腰痛疾患のなかった胎児〜88歳までの死体解剖例(54体)と、腰痛疾患を持つ14歳〜68歳までの椎間板摘出例(23名)を対象に、20250枚におよぶ腰部椎間板の組織標本を作製し、どちらの標本か知らない第三者の手によって顕微鏡で詳しく分析したものです。
要するに、顕微鏡で調べた人は、年齢も腰痛があった人かも分からない状態で、分析したと言うことです。

その結果、腰痛の有無に関わらず、3歳〜10歳で椎間板への血液供給量が減少し始めるとともに軟骨終板にも亀裂が認められ、11歳〜16歳では線維輪の亀裂や断裂といった椎間板構造の崩壊がみられました。

腰痛があった人もなかった人も、同じように3歳くらいから老化が始まり、11歳くらいから椎間板変性が起きているということです。衝撃的な内容ですね。

この研究でも、腰痛と椎間板変性に関連性がないことが証明されたことになります。

この研究も、腰痛関連のノーベル賞と言われるVolvo賞を受賞している研究です。

 

 

椎間板ヘルニアとMRIの弊害

MRIと椎間板ヘルニア
MRIと椎間板ヘルニア

病院で行われる椎間板ヘルニアの確定診断に用いられるものとしてMRIがあります。
日本はMRI大国で、世界で一番MRIを頻繁に使う国だそうです。 

椎間板はレントゲンでは写りませんが、MRIならしっかり写りますので、椎間板ヘルニアになっているかどうかは一目瞭然と言うわけです。
これなら患者さんも納得と思いますが、ところがそこには大きな落とし穴があります。 

こんな研究データがあるのをご存知でしょうか。 

1990年、ジョージ・ワシントン大学メディカルセンターのScott D. Bodenらの研究によると、腰痛や坐骨神経痛を過去にまったく経験していない67名をMRIでしらべたところ、60歳以下では1/5の人に椎間板ヘルニアが認められたのです。

また半数の人に椎間板のふくらみ(椎間板ヘルニアの手前の状態)が見られたそうです。
そして60歳以上になると、なんと1/3の人に椎間板ヘルニアが見つかり、80%近くの人に椎間板のふくらみが見られたのです。 

要するに、腰痛の経験のない人でも、椎間板ヘルニアを持った人は多く、年齢を重ねるごとにその割合が増えるということです。

椎間板ヘルニアとは、椎間板の状態を示しているに過ぎず、腰痛とは、直接関係ないということです。

 

 

MRI検査で椎間板ヘルニア? ご安心を!

MRIと椎間板ヘルニア
MRIと椎間板ヘルニア

上の研究と類似した研究をご紹介します。

 

モーリン・ジャンセン率いる研究チームが「ニューイングランド医学雑誌」に発表した、腰下肢痛の病歴のない98名を対象にし、腰椎をMRIで調べた研究です。

それによると、36%の人は、どの椎間板も異常はなく、52%の人には、1箇所以上の椎間板のふくらみが見られ、27%に椎間板の突出、1%に髄核の脱出があったそうです。

この研究では、「MRIによって腰痛患者に椎間板のふくらみや突出が見つかったとしても、多くは偶然によるものである」と結論付けています。 

MRIの画像によって、椎間板の異常を見せられると、これが腰痛の原因だと、納得してしまいますが、研究が示すように椎間板の異常と腰痛とは、関係性はありません。

 

 

椎間板ヘルニアは痛みの原因ではない?!

椎間板ヘルニアが腰痛と関係ないことが、多くの研究で証明されていますが、それをされに決定づける研究をご紹介しましょう。

 

1995年にBoos Nによって発表された研究で、強い症状を訴える椎間板ヘルニア患者46名と、年齢、性別、職業などを一致させた健常者46名の腰部椎間板をMRIで撮影し、内容を知らない2名の神経放射線医が読影しました。

 

また、事前に心理社会的側面を探るためにアンケートを実施しました。


その結果、健常者の76%に椎間板ヘルニアが、85%に椎間板変性が認められ、椎間板ヘルニア患者と健常者の間にヘルニアのタイプの差はなかったのです。

 

健常者の椎間板ヘルニアと椎間板変性
健常者の椎間板ヘルニアと椎間板変性

そして、同時に行ったアンケート調査から、仕事に対する姿勢(心理的ストレス、集中力、満足度、失業)や心理社会的因子(不安、抑うつ、欲求不満、夫婦関係)が危険因子が、痛みと相関関係にあったと結論付けました。


この研究は、腰痛研究のノーベル賞と言われているVolvo賞を受けた世界的評価の高い研究です。

 

腰痛とストレス
腰痛とストレス

腰痛の新常識、腰痛の原因を知って下さい。